2019年4月からすべての事業者に対して全従業員に年5日間の有給を取得させることが義務化されています。
違反した場合5日間取得出来ていない従業員1人に対して30万円の罰金が課せられる可能性があります。100人規模の会社で全員取れてなかった場合はその額は3000万円という大きな金額になります。
とはいえ会社規模、業種、経営環境によっては従業員に有給を取得させることが難しい場合もあります。多くの事業主さんからこちらの相談はよく頂きます。
今回の記事ではどのような運用をすると効率的に有給休暇を5日取得させることができるかについて解説します。
年5日の有給取得が義務化されている対象者
まず初めに年5日有給を取得させなければならない対象者です。すべての従業員ではありません。対象となるのは年に10日間有給を付与される人です。
正社員の有給付与日数はこちらです。入社6か月で10日間付与されるので正社員は5日間有給を取得させなければいけません。
そしてよくパートにも有給は取らせる必要がありますかという質問を受けます。結論からパートにも有給は与えなければなりません。雇用区分は関係ありません。ただし正社員より出勤日数が少ない従業員の有給は比例付与といって出勤日数と継続勤務年数に応じて付与日数が異なります。
週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の従業員の付与日数はこちらです。
勤務年数が少ないうちは誰も10日間付与されることはないので年5日の取得義務はありません。
しかし勤務年数が増えるにともなって1年間に付与される日数が10日以上になるパターンも出てきます。この場合はパート従業員も有給は5日間与える必要があります。
どのように有給を5日間取得させる?
本来有給は従業員が指定した日に取らせるものです。会社は原則として指定された日に有給を取得することを拒むことができません。
しかし会社としては従業員に有給を好きなタイミングで取られてしまうと会社の運営に支障が出るという問題もあるでしょう。
そこで業務の繁閑や人員の配置などを考え有給取得日を会社が計画的に指定し管理する方法が考えられます。
ではどのような管理方法があるでしょう。
有給取得推奨日を設ける
会社にとって比較的業務が忙しくない日を有給推奨日とする方法です。
年末年始やゴールデンウィークの間の日などは営業職では取引先が休みとなっていて訪問先がないという時や事務職では月末月初は忙しいけど月の間は比較的仕事が少ないということがあります。そのような日を推奨日とすることで有給を気兼ねなく取得してもらえます。
ただしあくまでも推奨日などで有給取得を強制することは出来ません。有給推奨日なので出社をしないように指示することは出来ないのです。
時季指定を行う
従業員にあらかじめいつ有給を取得したいか意見を聴いて計画的に5日間有給を取得させる方法です。
会社は従業員の希望を出来る限り尊重して有給を取得させるよう努めなければなりません。有給を申請しにくいと感じている従業員も会社側から取得日を指定してもらえれば安心して有給を取得することが出来ます。
時季指定をするために必要なこと
時季指定を行うにあたっては就業規則への規定が必要です。就業規則には絶対的必要記載事項というものがあり、始業・終業の時刻・休憩・休暇など必ず記載しなければいけない項目があります。有給は休暇に関することなので対象となる労働者の範囲と時季指定の方法等について就業規則に記載しなければなりません。
罰則の適用もあり!
なお時季指定を行う場合において就業規則に記載していない場合は労働基準法第120条に違反し罰則が科されることがあると厚生労働省の資料には記載されているので必ず就業規則には規定しておきましょう
どのように規定すれば良いかについては厚生労働省が規定例を出しています。
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
上記の文章だけ見ると良く分からない思いますが厚生労働省モデル就業規則22条の年次有給休暇に関する条文をそのまま規定しておくと良いでしょう。
Wordファイルでダウンロード出来ます。
モデル就業規則について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
計画付与制度を導入する
事業主があらかじめ従業員の有給取得日を定める方法です。初めに解説した有給推奨日についてはあくまでも取得するかしないかは従業員が選択するものですが、この計画付与は従業員の意思に関係なく事業主が定めた日が有給取得日となります。
有給取得日の定め方については会社全体を休みとして有給取得とすることはもちろん支店単位、部門単位、個人ごとにも定めることが可能です。閑散期を有給取得日としたり年末年始やゴールデンウィークにさらに有給を取得させて大型連休とすることが可能です。
個人ごとに有給付与日を定めることが出来るので会社の福利厚生として誕生日や結婚記念日を有給とすることも出来ます。
計画付与で取得させることができるのは付与日数から5日を除いた残りの日数です。もしも会社が従業員の有給日数をすべて計画付与で取得させようとした場合従業員本人の希望の日に有給を請求することが出来なくなってしまいます。
少なくとも5日間は本人の希望で請求できる有給を残しておく必要があるとされているので5日を除いた残りの付与日数を有給取得日として指定することが可能です。
- 計画付与制度の導入に必要なこと
1.就業規則に規定する
時季指定同様こちらも休暇に関することなので就業規則への規定が必要です。
規定例についても厚生労働省が出しています。
【就業規則規定例】
4 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
こちらも厚生労働省モデル就業規則22条の年次有給休暇に関する条文をそのまま規定しておくと良いでしょう。
モデル就業規則について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
2.労使協定の締結
就業規則で定めることに加え労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定を締結する必要があります。この労使協定は労働基準監督署への届け出は必要ありません。
労使協定に定めることは5つです。
・計画付与の対象者
計画付与を誰に適用するのかを明記します。全従業員、職種ごと、特定の業務に従事する者、など記載しましょう。
・対象となる有給の日数
計画付与により何日有給を取得させるのかを記載します。
・具体的な付与方法
具体的にいつを有給取得日とするのかを定めます。個人別に計画付与として有給を取得する場合にはカレンダーや計画表を作成する時期と手続き方法について記載します。
・有給日数が少ない者の取り扱い
一斉に休業した場合にまだ入社間もなくて有給が付与されていない従業員がいた場合の対応について定める必要があります。
次のいずれかが考えられます
- 特別有給休暇として取り扱う
- 休業手当として平均賃金の60%を支払う
・計画付与日の変更
計画付与日を変更する可能性がある場合には、労使協定で計画付与日を変更する場合の手続きについて定めておく必要があります。
労使協定の例についても厚生労働省からひな形をWordファイルでダウンロードできるので参考にしてみても良いでしょう。
ちなみに計画付与制度を導入した場合には働き方推進支援助成金という助成金が活用できます。
計画付与を導入してさらに従業員の負担が軽減されるシステムや設備を購入した場合、最大購入費用の5分の4(上限50万円)の助成が受けられます。
生産性向上が求められている今ぴったりの助成金です。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
まとめ
全社員に有給5日間取得させることは難しいかもしれませんが法律で決まっていることなので企業としては対応していく必要があります。
また有給を取得しやすい環境となれば風通しの良い職場環境になり従業員の定着に繋がります。採用においても有給を多くとれる会社はホワイトなイメージを持たれるので人材の確保にもつながります。
従業員が有給を取得すると経営に支障が出るということもありますが、有給を取得させることにより会社にとって採用・定着などのメリットもあります。
有給を取得しやすい職場づくりを積極的に推進していきましょう。
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