2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法が施行されます。
パワハラ防止法は実は大企業には2020年6月から防止措置が義務化されていましたが中小企業は努力義務として猶予されていました。
しかし猶予期間もいよいよすべての事業主にパワハラ防止措置が義務付けられました。
パワハラがあった場合加害者が被害者に対して責任を負います。
しかしこの度の法改正で防止措置が事業主に課せられたことにより法対応していなかった場合、本来法律で対応すべき防止措置を怠っていたということで事業主の責任がより一層問われることになります。
そこでパワハラ防止法とは何なのか、そもそもパワハラの定義とはいったい何なのか、法制化されたことにより何が義務付けられたのかについて解説していきます。
パワハラ防止法とは
パワハラ防止法と世間では言われていますが実はそれは正式名称ではありません。
正式には労働施策総合推進法というものがありその一部が改正されました。
具体的に何が改正されたかというと【事業主の雇用管理上の措置等】【事業主及び労働者の責務】という条文が追加されました。
(雇用管理上の措置等) 第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
(国、事業主及び労働者の責務) 第三十条の三 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。 2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。 3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。 4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。 |
この上記2つ【事業主の雇用管理上の措置等】【事業主及び労働者の責務】こそがパワハラ防止法と呼ばれているものです。今まではパワハラを予防するために事業主が講じるべき措置というのは法律で規定されていなかったということです。
ではなぜこの度パワハラ防止法が制定されたのでしょうか。
パワハラ防止法施行の背景
パワハラ防止法施行の背景はパワハラに関する悩みを掲げる従業員やパワハラに関する紛争・トラブルが多いからです。
全国の労働局、労働基準監督署内には総合労働相談コーナーというものが設置されており専門家が職場のトラブルに関する相談や解決のための情報提供を行っています。
解雇・雇止め、配置転換、賃金の引き下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなどのあらゆる分野の労働問題を対象としています。
この労働相談コーナーに寄せられる相談件数は毎年100万件以上となっております。
出展:厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
この100万件を相談内容別に見るといじめ・嫌がらせなどのハラスメント関係のものが極めて多いです。
出展:厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
ハラスメントが深刻な社会問題となっているため対策として防止措置が企業に義務付けられました。
パワハラの定義とは
ではパワハラの定義とは何なのでしょうか。パワハラと指導との線引きが分からないといった声もよく聞きます。
厚生労働省ではパワハラについて以下のように定義しています。
「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすもの」
(1)から(3)をの要素を具体的に見ていきます。
「優越的な関係を背景とした言動」
「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するに当たって言動を受ける労働者が、発言する者に対して抵抗又は拒絶することができない確率が高い関係を背景として行われるものを指します。
例えば以下のようもなのが優越的な関係を背景とした言動となります。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その人の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
このように上司と部下の関係に限らず同僚や部下も当てはまる場合があります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた行動」
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。
例えば以下のようなものが業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動となります。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- その行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
逆にいうと業務上必要かつ目的があって行う適正な指導や叱責はパワハラには該当しません。
したがって嫌がらせなどが目的ではなく、それが仕事の遂行もしくは目的を達成するために必要な指導・叱責であるならば過度にパワハラを恐れる必要はありません。
この判断に当たっては、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
同じ行動や言動であってもシチュエーションによって受け手側の心理的負担は異なります。
したがってその言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無、言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等の考慮が必要です。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた行動」
「労働者の就業環境が害される」とは、その言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を受けて働く環境が不快なものになり、能力の発揮に重大な悪影響が生じているなどの働く上で見過ごせないレベルの支障が生じるものを言います。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。
つまり受け手が個人的にどう感じたかではありません。
同じ状況で同じ言動を受けた場合において、社会一般の労働者が働く上で見過ごすことができないレベルの支障が生じるような言動であるかどうかを基準とします。
ここが非常に重要なポイントです。
よく何でもかんでも「それはパワハラだ!」と言ってくる社員がいるとの相談を受けますが、それが明らかに他の労働者にとっては特段負担を感じない場合はパワハラには該当しません。
パワハラの6類型
出展:「あかるい職場応援団 NOハラスメント」
職場のパワーハラスメントの代表的な例として6つ行為類型があげられます。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく、 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕 事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち 入ること)
6類型 | 該当すると考えられる例 | 該当しないと考えられる例 |
身体的な攻撃 |
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精神的な打撃 |
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人間関係からの切り離し |
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過大な要求 |
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過小な要求 |
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個の侵害 |
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ただしこれは厚生労働省が代表的な例として挙げているだけでこの6類型が全てではありません。
また実際の状況に応じて判断が異なることもあるので、パワハラに該当するかについては慎重に対応が必要です。
法対応するために必要な防止措置
パワハラ防止法が施行されるといったところで結局会社は何をしておけばよいのしょうか。
法対応するために会社が必ず講じなければならない具体的な措置の内容は以下の通りです。
事業主の方針等の明確化および周知・啓発 |
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相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
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職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応 |
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併せて講ずべき措置 |
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では実際に
- 事業主の方針の明確化といってもどのようなことを記載して周知すれば良いか
- 相談窓口を設置したところでどのように相談に対処すれば良いか
- 再発防止に向けた措置はどのような措置を講ずべきか
の解決方法についてはこちらの記事で解説しているので見て頂けたらと思います。
【雛形あり】2022年4月全面施行パワハラ防止法の法対応を徹底解説 | HRパンダの人事労務ナビ~人事労務に携わるすべての人に役立つブログ~ (hrpanda.biz)
【パワハラ防止のための望ましい取り組み】
パワハラ防止措置として必ず講じなければないものは上記の通りですが、そのほかにも以下のようなことを努力義務として積極的に対応することが求められています。
- パワハラ、セクハラ、マタハラを一元的に相談に応じることができる体制を整備すること
- パワハラの原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行うこと
- パワハラを行ってはならない旨の方針を行う際に自社の労働者だけでなく他の会社の労働者、求職者、フリーランスや技能実習生等にも同様の方針を示すこと
- カスタマーハラスメントに関し相談体制の整備や被害防止のための取り組み(メンタルヘルス不調への相談対応、マニュアルの作成や研修等の実施)を行うこと
まとめ
パワハラがもたらす会社への影響は従業員のモチベーションや生産性の低下、メンタル疾患者の増加、定着率の悪化、退職者の穴埋めのための採用コストの増加など計り知れません。
会社経営の観点からもパワハラを未然に防ぎ、従業員が働きやすい職場環境づくりを整備していくことは生産性の向上や定着に密接に繋がってきます。
今回の法改正で防止措置が義務付けられましたが「義務化されたから最低限の対応をしておく」のではなく会社がより発展し、成長するためにもパワハラの防止措置を進めていきましょう。
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