社会保険は将来受け取る年金や万が一の際の障害、死亡への補償、また、働けなくなって賃金を受けなられなくなった際に出産する場合の手当など生活に密接に関連するものです。
事業主が適正な手続きをしていなかった場合は社員が補償を受けるうえで不利益を被る可能性があります。
また社会保険の調査などが入った際にも適正な手続きが行われていなかった場合、遡って社会保険料を徴収されたり、従業員からも追加で遡って社会保険料を控除する必要が発生する恐れがあります。
この記事ではそのようなことにならないよう社会保険の加入条件について解説します。
社会保険の定義
社会保険と一口に言っても捉え方が2種類あり
「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」があります。
広義の社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険、労災保険、雇用保険の5種類の総称をいいます。
狭義の社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険を言います。
一般的に社会保険というと狭義の社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)を指すことが多いです。(ちなみに労災保険、雇用保険をあわせて労働保険と言います)
社会保険に加入すると行った際は狭義の社会保険である健康保険、厚生年金保険、介護保険のことを指します。
社会保険の適用事業所
社会保険は事業所単位で適用され「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2つに分類されます。
強制適用事業所 |
強制適用事業所は強制的に社会保険に加入することが義務付けられる事業所を指します。
〇〇株式会社や〇〇法人などの法人の事業所は必ず強制適用事業所となります。
個人経営の場合は雇用する労働者が5人未満であれば社会保険に加入しなければならない強制適用事業所とはなりません。しかし法定16業種に該当し常時使用する労働者が5人以上いる場合には個人事業で法人化していなくても社会保険の強制適用事業所となります。
ほとんどの仕事が法定16業種に該当するので逆に該当しない業種を覚えたほうが早いです。
法定16業種に該当しない代表的な業種といえば宿泊業や飲食業や理美容業、農業や林業や漁業となります。
飲食店や美容師で正社員として働いているのに社会保険に入らせてもらえないといった話も聞きます。それは法人化しておらずそもそも社会保険が適用される事業所ではないという可能性があります。その場合フルタイムで働いているにも関わらず社会保険に加入させてもらえなくても違法ではありません。
任意適用事業所 |
適用事業所以外の事業所であっても従業員の半数以上が社会保険の適用事業となることに同意し事業主が申請した場合、社会保険へ加入することが出来ます。
個人経営で5人未満の会社も飲食店や理美容、宿泊業を運営している会社も事業主が任意適用の申請をすることによって社会保険に加入が出来るということになります。
社会保険の加入条件
法人の代表者や役員、正社員は強制的に加入となります。
パート・アルバイトは労働時間によって加入の有無が変わってきます。
1週間の労働時間が正社員の4分の3以上であれば被保険者となります。
例えば【週休2日制 土日休み 1日8時間勤務】の場合1週間の労働時間は40時間です。
40時間の4分の3は30時間なので週30時間以上働く人は社会保険の加入となります。
多くの会社が1週間の労働時間は40時間の場合が多いので、一般的には週30時間以上働くと社会保険加入と言われています。
なお、常勤の役員については労働時間という概念がないため1円でも報酬が出てれば労働時間に関わらず社会保険の加入対象となります。
逆に報酬が全く出ていない場合は代表取締役であっても社会保険の加入対象とはなりません。
短時間労働者の取り扱いについて
社会保険には特定適用事業所という概念があります。
特定適用事業所とは社会保険への加入者が500人を超える企業です。
特定適用事業所で働く人は週の労働時間が30時間未満の場合でも一定の要件を満たせば社会保険へ加入することになります。
令和4年10月以降は特定適用事業所について「500人を超える」という要件が「100人を超える」という要件になります。
この一定の要件とは以下の4つ全てに該当することです。
- 週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が88,000円以上あること
- 学生ではないこと
それぞれ個別に詳細を見ていきます。
1.1週間の所定労働時間が20時間以上あること |
週の「所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書等により、その従業員が通常の週に勤務すべき定められた時間のことです。
2.雇用期間が1年以上あること |
期間の定めがない雇用契約の場合やすでに雇用期間が1年以上続いている場合はこの要件に該当します。
また雇用期間が1年未満の場合でも下記のいずれかに該当すれば要件にあてはまります。
- 雇用契約書に契約が更新される旨または更新される可能性がある旨が明示されている場合
- 同様の雇用契約により雇用された者について更新等により1年以上雇用された実績がある場合
また、当初は雇用期間が1年以上見込まれなかったものの、契約更新等により、その後に1年以上雇用されることが見込まれることとなった場合は、その時点(契約締結日等)から被保険者となります。
3.賃金の月額が88,000円以上あること |
この88,000円からは下記の賃金は除きます。
- 慶弔手当や賞与など臨時に支払われる賃金及び1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 時間外、休日、深夜に対して支払われる割増賃金
- 皆勤手当、通勤手当、家族手当など最低賃金に算入しないもの
4.学生でないこと |
週20時間以上30時間未満の間で働く学生は社会保険の対象となりませんが、下記に該当する場合は社会保険加入となります。
- 卒業見込証明書を持っていて、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ企業に勤務する予定の者
- 休学中の者
- 大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の者
よくある質問
Q-1 雇用契約書では週の労働時間が30時間未満になっているが実態は恒常的に週30時間を超えて働いています。社会保険に加入させるべきでしょうか。 |
実態として週30時間を超えて働いている場合は社会保険に加入させる必要があります。事業主は雇用契約書の見直しをしていく必要があります。
(特定適用事業所で社会保険加入要件となる週20時間の判断についても同様です。)
Q-2 具体的な週の労働時間や月の労働時間が決まっておらず30時間を超える週もあれば超えない週があるのですが社会保険の加入の有無はどのように判断すれば良いでしょうか。 |
月の総労働時間が129時間を2か月連続で超えるようであれば加入を検討しましょう。
労働時間に変動がある場合、1週で平均して30時間を超えているかを見ます。
1年間は52週です。52週を12か月で割ると1か月あたり4.33週となります。
1週間30時間以上で社会保険加入とした場合
30時間×4.33週で129時間となります。
129時間以上働くようであれば月平均して週30時間以上働くことになるので社会保険の加入が必要になってきます。
129時間未満であれば週30時間に満たないので社会保険に加入させる義務はありません。
Q-3 週30時間を超えて働く学生は社会保険の加入の対象となるのでしょうか。 |
学生であっても週30時間以上働く場合には社会保険の加入義務が発生します。
特定適用事業所で働く学生は労働時間が週20時間以上30時間未満の場合は加入の対象とならないが30時間以上になると加入義務が発生するので注意が必要です。
なお雇用保険の加入要件においては学生は対象となりません。
Q-4 従業員が社会保険に加入したくないというので加入させていません。問題ないでしょうか。 |
社会保険は従業員の希望の有無に関わらず加入要件に該当するのであれば強制的に加入の義務が発生します。
従業員が加入したくないのであれば労働時間の変更など契約を見直す必要があります。
(備考) 上記にあげている週30時間というのは正社員の4分の3以上という記載をすると分かりづらいため30時間と記載しています。週30時間というのはあくまでも一般的な週所定労働時間が40時間の会社と仮定しています。1日の労働時間が7時間30分など所定労働時間が短い場合には、30時間という数字を正社員の週所定労働時間の4分の3に置き換えて加入要件をご判断ください。 |
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