会社には従業員に定期的に健康診断を受診することが義務付けられています。
健康診断を義務付けているのは労働者の身体状況を適切に早くすることで作業により引き起こされる事故や疾病の予防と問題を早期発見をし、健康に配慮した適正な配置をするためです。
労働者の健康状態を知ることは今後の人員計画など経営にも影響してきます。本記事では一般健康診断について解説していきます。
健康診断の実施義務の対象者
労働安全衛生規則では定期健康診断について以下のように定めてます。
定期健康診断(労働安全衛生規則第44条一部抜粋) 事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。 |
この常時使用する労働者がどこまでを指し示すのかですが正社員は当然対象となります。
契約社員やパート社員でも下記の2つの要件をいずれも満たした場合は健康診断を実施する義務があります。
- 契約期間の定めがない者、契約期間がある場合は1年以上雇用する見込みがある者、1年以上雇用している実績がある者
- 週の労働時間がその事業場で働く正社員の4分の3以上ある者
正社員の週の労働時間が40時間の会社の場合、30時間以上働く1年以上働いているパート社員は健康診断の対象者となります。
なお週の労働時間が正社員の2分の1以上4分の3未満の労働者についても健康診断を受診させるのが望ましいとされています。(義務ではありません)
労働者の受診義務
定期健康診断の受診が面倒であったり、健康状態を会社に知られたくないという理由で健康診断の受診を拒否する場合があります。
労働安全衛生法第66条第5項では「労働者は、事業主が行う健康診断を受けなければならない」と明確に規定されています。
但し書きとして
「事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。」
とされてはいますがいずれにしろ健康診断を受ける義務はあります。
法律として受診することが定められており、受診しないことは法律違反になってしまうことを伝えましょう。
就業規則にも健康診断の受診義務があることを服務規律として定め、正当な理由なく受診拒否した場合は懲戒処分の対象となることを規定しておくとなお良いでしょう。
健康診断の項目
一般健康診断の診断項目は下記の通りです。
診断項目
1 既往歴及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査及び喀痰検査
5 血圧の測定
6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
8 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロー
ル、血清トリグリセライド)
9 血糖検査
10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11 心電図検査
健康診断の費用について
健康診断の費用については全額事業主が負担する必要があります。
健康診断は保険適用がない自由診療です。
費用については都道府県や医療機関によってさまざまですが5000円~15000円が相場です。
オプション費用
健康診断の際従業員は希望によりオプションで追加の健診を受けることが出来ます。
オプションにかかる費用については事業主が不安する義務はなく従業員が支払うこととなっています。
再検査費用
健康診断の結果以上がみられた場合再検査と記載されます。再検査に係る費用については事業主が負担する義務はありません。
健康診断中の労働者の賃金
一般健康診断は業務遂行と直接の関連があるわけではないため、賃金を支払うことまでは義務付けられていません。
したがって法律的には休日に健康診断を受診させることも可能ですし、所定労働時間中に健康診断を受診させた場合はその時間分の賃金を給与から控除することが出来ます。
ただし労働者の健康の確保は事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると賃金を支払うことが望ましいとされています。
また労働者が健康診断の受診することを服務規律に定め、受診拒否をしたことにより懲戒処分を検討する場合には、健康診断の受診が会社の業務命令の側面もあるので賃金を支払う方が良いと考えます。
健康診断の事後措置
労働安全衛生法では健康診断を受けさせることだけでなく健康診断の実施後の措置についても細かく定められています。
異常所見の有無のチェック
健康診断の結果を受領し異常の所見があるか確認します。
要再検査または要精密検査と判定された労働者に対しては受診を奨めるように働きかけるのが適当とされています。
健康診断結果の通知
受領した健康診断の結果を労働者に通知することが義務付けられています。
医師等からの意見聴取
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者については、就業上の措置について、3か月以内に医師又は歯科医師の意見を聴く必要があります。
産業医を選任していれば意見聴取の対応は可能ですが50人以下の場合は産業院の選任義務がないので意見を聴く医師がいないという会社が多いと思います。
このような事業場に向けて厚生労働省が全国に「地域産業保健センター」というものを設置しています。
地域産業保健センターでは労働者数50人未満の小規模事業者やそこで働く従業員を対象として労働安全衛生法で定められた保険指導などのサービスを無料で提供しています。
健康診断で異常の所見があった労働者に関する健康保持のための対応策についても医師から意見を聴くことができるサービスもあるのでこちらを活用するのが良いです。
産業医・保健士による保険指導
健康診断の結果特に健康の保持に努める必要があると目止められる労働者に対しては、医師または保健師による保険指導を行うように努めなければならないとされています。こちらについては義務ではなく努力義務となっています。
就業上の措置の決定
医師や専門家の意見を勘案し必要がある場合は労働時間の短縮や時間外労働の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少の措置を講ずる必要があります。
健康診断結果の保存
事業主は健康診断の結果をもとに健康診断個人票を作成し5年間保存する義務があります。
健康診断個人票は労働安全生成規則にて様式5号として様式が定められています。
参考 厚生労働省:様式5号「健康診断個人票」
ただし様式5号にある項目がされていれば形式は問わず異なる様式を使用しても問題ないとされています。
参考 厚生労働省:健康診断個人票の様式の任意性の周知について
通常は医療機関に健康診断の申し込みをする際に企業検診であることを伝えれば会社にも健康診断の結果が送付されます。
また個人票の作成が難しい場合は、個人の健康診断結果を従業員にコピーしてもらい、事業主に提出させ保管するといった方法もあります。
労働基準監督署への報告書の提出
常時50人以上の労働者を使用する事業者は定期健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
定期健康診断結果報告書の様式はこちらです。
この常時使用する労働者の数は、日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数をいいます。
なおこの50人という数字については事業場単位で判断します。
会社全体では50人以上従業員がいても複数拠点があり各事業場で50人以上超える事業場がなければ報告書の提出義務はありません。
50人を超える事業場があった場合でもその事業場のみ所轄の労働基準監督署に報告することで足ります。
参考 厚生労働省:事業場の規模を判断するときの「常時使用する労働者の数」はどのように数えるのでしょうか。
罰則
事業主が健康診断の実施義務に違反した場合、労働安全衛生法第120条の定めにより50万円以下の罰則となります。
なお、労働者にも労働安全衛生法で健康診断の受診義務を規定はしていますが、労働者には罰則の適用はありません。
まとめ
社員の健康は経営にとっても非常に重要です。健康状態を適正に把握することで適切な人員の配置をしましょう。
また安全衛生については法律が複雑で分かりにくいですが監督署の調査等でよく見られるポイントとなります。
適切な労務管理を行っていきましょう。
コメント